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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)118号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告主張の本件審決の取消事由の有無について、以下判断することとする。

前記本願発明の要旨並びに成立に争いのない甲第四号証の一及び二(本願発明の特許出願の願書並びに添附の明細書及び図面)、第五号証の一ないし三(昭和四七年七月二〇日付、昭和五三年一二月二二日付及び昭和五五年四月一一日付の手続補正書)を総合すれば、本願第一発明は、紡織繊維を集めてウエブにするためのエアレイダウン方法に関するものであり、特に、高品質の不織布の製造に使用するのに適したウエブを形成するために、紡織繊維を動いているスクリーン上で集めるように空気流の中で分散させ、輸送する際の改良に関するものであるところ、従来のエアレイダウン方法においては、フアイバは空気流によつて拡がる雲のように導管の中を通つて凝縮ロールのスクリーン面へ運ばれ、ここでフアイバは動くスクリーン上で層を形成するように比較的大きい面上にわたつて堆積されるが、フアイバを導管全体にわたつて比較的大きい面積上にほぼ一様に分布させるためには乱流が重要であつて、乱流を生じさせるには、分散ロールの近くで空気流の方向を変えること、ロールを通過する空気通路を狭くしておいて拡がつたダクトに接続すること、及び凝縮ロールにつながるダクト内を不規則にしておくことを要するものと考えられていたけれども、更に高品質のウエブを十分速い速度で製造するには右の方法を根本的に修正する必要があるとの知見に基づき、傷(例えば、フアイバの塊を堆積させることにより生ずる小さい異常)、縞(例えば、空気流速度の部分的変動によつて生ずるフアイバ密度の異なる線)及び他の可視的欠点のない高品質のウエブを高速度で製造することを目的として、ステープルフアイバを少なくとも九一五m/分の一様な初速度で、かつ、鋭角で移動している空気流中へ投入し、フアイバを空気流により動いているスクリーンへ運び、フアイバをスクリーン上で捕集することによりランダム配置の紡織繊維のウエブを製造する方法において、(1)安定空気流領域が形成されるように該空気流を制御し、次いで該ステープルフアイバを該安定空気流領域中へ投入し、この際該安定な空気流領域は、壁に隣接した最初の〇・二五四cmを除いて〇・二五四cmの厚さごとに±一五%より小さい厚さ方向の平均速度変動と、三〇・五cmのいずれの区間においても±一〇%より小さい幅方向の速度変動と、一五%以下の平均乱流強さとを有しており、(2)該ステープルフアイバが投入される角度は空気流の方向に対して二五度より小であり、(3)該ステープルフアイバを該スクリーン捕集機に運ぶ空気流の部分は、一五%より小さい平均乱流強さを有している、ことを特徴とする紡織繊維のウエブの製造方法、すなわち、本願第一発明の要旨(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したものであり、右(1)及び(3)のとおりステープルフアイバ搬送用空気流を特定値に限定したのは、厚さ方向の平均速度変動が±一五%を越えると、層の中に過度の混合が生じて、フアイバ流を乱したり拡げたりする渦の原因となるからであり、また、幅方向の速度変動の値が±一〇%を越えると、フアイバの厚さと軌跡に悪影響を生ずる渦が発生し、それによつてウエブ製品に傷が生ずる原因となるからであり、更に、右の(1)及び(3)のいずれの空気流領域においても、平均乱流強さが一五%より大きくなると、あるいは大きい速度変動及び不安定な部分的乱流強さによつて大きい渦が発生すると、薄いフアイバ流の形成が妨げられ、フアイバが拡がつた雲のように分散し、ウエブ製品に過度の傷が生ずるからであり、更にまた、前記(2)のとおり空気流に投入するステープルフアイバの投入角度を特定値に限定したのは、約二五度より大きい角度のときは、ロールがダクト手段の中へ侵入しすぎて、そのために分散ロールの直ぐ上流の所に不安定な渦が生じ、分散ロールによつて投入されるフアイバ流の中へ進入する空気流に不安定で一様でない領域を生じさせ、その結果、分散されるフアイバが薄い流れとならずに厚い雲のようになり、このために、傷と縞のあるウエブ製品が生じ、更には、二五度より大きい角度のときは、フアイバは向い側のダクト壁に衝突して、フアイバ分散が固まり、傷のあるウエブが生ずる原因となるからであつて、前記(1)ないし(3)の構成により所期の顕著な作用効果を奏するものであり、原告が主張するように、本願第一発明は、ステープルフアイバ搬送用空気流を安定空気流領域が形成されるように制御し、該空気流によつて、ステープルフアイバを拡がつた雲のように分散させることなく、薄いフアイバ流として、すなわち、薄い連続したシート状の流れとして搬送し、傷や縞のない高品質のウエブを高速度で得ることにその特徴があるものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。被告は、原告が本願第一発明の特徴として主張するところは本願第一発明の要旨外のことであり、本願発明の明細書及び図面によつても、本願第一発明により直ちに薄いシート状の流れが得られるかどうかは確認することはできず、かえつて、本願第一発明は雲状に搬送するものも包含する旨主張するが、本願第一発明は、ステープルフアイバを、雲状の流れとしてではなく、薄い連続したシート状の流れとして搬送することを意図し、それを達成するためにその要旨のとおりの構成を採用し、それにより所期の顕著な作用効果を奏するものであることは、前認定のとおりであり、したがつて、被告の右主張は、採用することができない。

他方、成立に争いのない甲第一号証(第一引用例)によれば、第一引用例記載の発明は、本願発明の優先権の主張の基礎となる最初の出願の日の前である昭和三五年一一月五日に出願公告された特許公報記載の織物繊維又は類似物からパツドを作る装置の改良に係るものであるところ、繊維又は類似物をパツドに形成する装置に、繊維又は類似物を送る改良された装置を提供することを目的として、多少水平の導管を通る気体媒体の流れの中に該繊維又は類似物を送出する装置を備え、該導管は織物繊維又は類似物をパツドに固める装置に連通しているパツド形成装置において、導管は繊維又は類似物を固める装置の前で導管内で該気体流を上方に向ける極部的垂直収縮部をもつことを特徴とする装置(第一引用例記載の特許請求の範囲)の構成を採用したものであり、これにより、繊維又は類似物の懸垂体を形成する気体の流れは収縮の区域内で加速され、その下流側において前記固め装置の前で流れは減速されて、これにより繊維又は類似物の懸垂体が平均の乱雑なシヤワーとなつて固め装置の上に落下するという作用効果を奏するものであり、これを更に具体的にみると、繊維は、給送ベルト12、給送ロール14、15、スパイク付開綿ドラム10によつて開綿ドラム10の下方の位置で導管8の入口に送出され、回転子2を有する遠心送風機1により匣体3の下部から送風機出口導管4を経て導管部分7に送られる空気流によつて、導管8からドラム5、6の周面上にシヤワーのように送られてパツドを形成するものである(別紙図面(二)参照)ところ、導管8の上壁又は床は別紙図面(二)に図示された17の個所において、ドラム10の送出点近くからパツド形成ドラム5、6近くの点まで隆起しており、隆起17は導管の局部的収縮を作り、例えば、飛行機の翼の上面の形に相当するような流線形の輪廓をもち、したがつて、導管8を通る通路は隆起17の頂部に向け垂直方向に順次狭くなり、繊維は隆起17を超え、再び断面形状が拡大され、ドラム5、6間の把握部に送られるのであるが、隆起17による導管8の収縮のために、隆起の上の流線形の流れの上にベンチユリ効果が生じるので、繊維の流れの速度は増大し、また、繊維は導管8の床の上を非常に効率よく流れ、かくして、送風機1が形成ドラム5、6へ繊維又は類似物を送るのが非常に助けられるという作用を果たし、その結果、「導管8の前端、即ち出口端の方にある此の導管の最大収縮区域を通過した後に、流れは猶層流の状態で流速は減少し、繊維は前記把握部の近くでドラム5、6の周面上にシヤワーの如くなつて送られてパツドの構造を作る」という効果を奏するものであることが認められ、これを本願第一発明と対比考察すると、本願第一発明は、前認定のとおり、ステープルフアイバ搬送用空気流を安定空気流領域が形成されるように特定値に制御し、これにより、ステープルフアイバを拡がつた雲のように分散させることなく、薄いフアイバ流として、換言すれば、薄い連続したシート状の流れとして搬送することによつて、傷や縞のない高品質のウエブを高速度で製造するところにその技術的思想が存するのに対し、第一引用例記載の発明は、前認定のとおり、導管に局部的収縮部を設け、導管内の空気流をこの収縮区域で加速し、収縮区域を通過した後に空気流の流速を減少させ、これにより、繊維(ステープルフアイバ)を乱雑なシヤワー状として、すなわち、雲のように分散させて固め装置上に落下させてウエブを製造するものであつて、本願第一発明のように、ステープルフアイバ搬送用空気流を安定空気流領域が形成されるように特定値に制御するものではなく、かえつて、前認定の第一引用例の具体例の構成等に徴すれば、その搬送用空気流は本願第一発明における制御のための特定値の範囲を外れたものであることが明らかであるから、第一引用例には、本願第一発明の構成を示唆するような技術的思想の開示があるものとは到底いうことができない。してみれば、第一引用例記載の発明の空気流を本願第一発明において制御する速度変動及び平均乱流強さに維持することは当業者が必要に応じ容易になし得るものとすることは相当でなく、これと異なる本件審決の認定判断は誤りというほかない。被告は、本願第一発明における空気流は層流を含むものであり、そして、第一引用例記載の発明における空気流も、層流であつて本願第一発明で規定する範囲内にとどまるものである旨主張するところ、本願第一発明及び第一引用例記載の発明に関する前認定の事実によると、本願第一発明における空気流は乱流であり、また、第一引用例記載の発明においても、少なくとも導管が拡大して繊維を固め装置の上に落下させる部分においては乱流が生じているものと認められるが、仮に、本願第一発明の空気流が層流を含み、かつ、第一引用例記載の空気流が層流であるとしても、第一引用例には、空気流を安定空気流領域が形成されるように特定値に制御し、これにより、ステープルフアイバを薄い連続したシート状の流れとして搬送するという本願第一発明の技術的思想を示唆するような技術事項が何ら開示されていないことは、前説示のとおりであつて、第一引用例記載の発明から本願第一発明に想到することが容易であるとは到底認められず、したがつて、被告の右主張は、その旨の前記判断を左右するものということはできない。また、被告は、本願第一発明の作用効果は第一引用例記載の発明から予測し得るものであつて、本願第一発明には進歩性がない旨主張するが、本願第一発明は、その構成により、ステープルフアイバを薄い連続したシート状の流れとして搬送し、傷や縞のない高品質のウエブを高速度で得るという顕著な作用効果を奏するのに対し、第一引用例記載の発明は、空気流を局部的な収縮部を有する導管内に流して、繊維を固め装置上にシヤワーのように送つてパツドを製造するものであつて、第一引用例には、本願第一発明の右の顕著な作用効果を予測し得るに足りる技術事項は何ら記載されておらず、したがつて、被告の右主張は、採用の限りでない。

以上によれば、その余の点について判断を加えるまでもなく、本件審決は、本願第一発明と第一引用例記載の発明との構成上及び作用効果上の差異を看過し、ひいて、本願第一発明をもつて第一引用例ないし第三引用例記載の発明から容易に推考し得るとの誤つた結論を導いたものであることが明らかであるから、違法として取消しを免れない。

(結語)

三 よつて、原告の本訴請求は、理由があるので、これを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 ステープルフアイバを少なくとも九一五m/分の一様な初速度で且つ鋭角で移動している空気流中へ投入し、フアイバを空気流により動いているスクリーンへ運び、フアイバをスクリーン上で捕集することによりランダム配置の紡織繊維のウエブを製造する方法において、

(1) 安定空気流領域が形成されるように該空気流を制御し、ついて該ステープルフアイバを該安定空気流領域中へ投入し、このさい該安定な空気流領域は、壁に隣接した最初の〇・二五四cmを除いて〇・二五四cmの厚さ毎に+一一五%より小さい厚さ方向の平均速度変動と、三〇・五cmのいずれの区間においても+一一〇%より小さい幅方向の速度変動と、一五%以下の平均乱流強さとを有しており、

(2) 該ステープルフアイバが投入される角度は空気流の方向に対して二五度より小であり、

(3) 該ステープルフアイバを該スクリーン捕集機に運ぶ空気流の部分は、一五%より小さい平均乱流強さを有している、

ことを特徴とする紡織繊維のウエブの製造方法。

2 ステープルフアイバを空気流中に運ぶための断面が矩形のダクト、該ダクトを通して空気流を流すための空気供給手段、該ダクトにある開口を通し該フアイバを投入して空気流中にフアイバの流れを形成するための回転する歯の付いた分散ロールとそれと協同して作動する固定分散板、及び空気からフアイバを分離してウエブを形成するための凝縮手段を有してなるランダム配置の紡織繊維のウエブを製造する装置において、均一なウエブを高速度で生産するために、該空気供給手段はダクト(20)よりも大きな断面積をもつ高度に一様な空気通路(14)を有しており、該通路(14)は滑らかなゆるやかに収束する部分(18)によつて該ダクト(20)に直接連結されており、該空気供給手段はまた乱流と渦が実質的にない一様な空気流を与えるために該空気通路(14)中に設置されたスクリーン(38)、(42)及びハニカム構造(40)を有しており、更に該分散ロール(8)及び該分散板(10)は該ステープルフアイバが該空気流中に空気流の方向に対して二五度より小さい角度で投入されるように設計され且つ設置されていることを特徴とする紡織繊維のウエブの製造装置。

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